――…。
「…おかしい。絶対におかしい。」
放課後、由佳は松本先生から受け取った地図を見ながら、1人呟いた。
松本先生の地図に示された薫の家の前に来た由佳は、きっと何かの間違いだと思った。
「あいつがこんなところに住んでるわけがない。」
由佳は目の前にそびえ立つ、超高級高層マンションを見上げながら、呟く。
だが松本先生が書いてくれた地図は、明らかにこのマンションを示している。
恐る恐る由佳がマンションの入口に入ると、そこはまるでホテルのような内装だった。
広々とした大理石の床のロビーには高そうなソファがずらりと置いてあり、天井も驚くほど高く、BGMには優雅なクラシック音楽が流れている。
「お帰りなさいませ。」
そう言って頭を下げるのは、上品なコンシェルジュだ。
マンションにコンシェルジュなんて、聞いたことがない。
コンシェルジュなんて、高級ホテルぐらいにしか居ないのではないだろうか。
未知の世界に踏み込んだ由佳は、目眩がしそうだった。