「そう!これ、桐島に作ってきたの!」


由佳は自分でも何を言っているのか分からなかった。
この危機的な状況を回避するために、とっさに起こした行動だった。


「え?俺!?」


和也は驚いたように言う。


「そう!食べて!じゃ!」

「え…ちょっと笠原待っ…」


由佳は和也の言葉も聞かず、慌てて靴を履き、その場から逃げるようにして去った。

去り際に、由佳は薫と一瞬目が合ってしまった。

だが慌てて目をそらすと、その場を後にした。


「ごめんだけど、俺これ受け取れねぇわ。」


薫は目の前でチョコを差し出す女の子に、そう言った。


「え…」

「俺は好きな奴からしか受け取らないことにしてる。ごめんな。」


走り去って行く由佳の後ろ姿を見つめながら、薫は呟いた。