「行くって何処へですか?」

タイミングよくコウがこちらに戻ってくる。

「この後予定がはいっているの。そろそろ時間だから行かないと」

「残念ですが、予定はキャンセルですね」コウが同情するように眉を顰める。

「はあ?」友里恵が怪訝な表情を浮かべ聞き返した

「あなたは拉致未遂の被害者であると同時に、発砲騒ぎの目撃者でもある。署までご同行願いますか?」

にっこりと微笑んでいるものの、コウは有無を言わせぬ口調だ。

「嫌よ!今日はデートなのよ?!断るわ!」

こんな目にあっても、あくまでデートを遂行しようという彼女の見上げた根性に思わず感心してしまう。

「薫、お友達に教えて差し上げて」

「ええ!」私が嫌そうに顔を顰めると

コウは私にチラリと鋭い視線を送り「言え」という無言の圧力をかける。

「あの、友里恵、これは国民としての義務だから」

「あんた!すっかり飼いならされて!」

友里恵はいつもはバンビのように可愛らしい目を鬼のように釣り上げて私を睨みつけた。

「外資系金融のエリートとデートだったのに!あんたのせいで台無しよ!おかしな事に巻き込まないでちょうだい!」

さっきと言ってる事が全然違う。

しかし、友里恵の怒りに圧倒されて何も言い返せない。

「外資系企業は報酬がいい分、人の入れ替わりも激しいですよね?」

コウが余計な事を口にしたものだから「だから何よ!」と言って、友里恵はキッと睨みつける。