「うーん、いいニオイ」坊主が髪に顔を押し付けて来たので、持っていたコーヒーをぶっかける。

「触んないでよ!変態!」

「あっつ!なんだよこの女!」

怒り狂ったタトゥー男に腕を強引に掴まれ鼻先で恫喝される。

「いい加減にしねえとぶっ殺すぞ?!」

目が血走って尋常じゃない。

デジャブ。

私はこの目を知っている。

公園での一件を想い出して全身が一気に粟立った。

あまりの恐怖に意識が遠のきそうになるが、奥歯をギュッと噛みしめてなんとか持ちこたえる。

「今日は…かぶってないんだ、帽子」

私はタトゥー男を睨みつけ震える声で尋ねる。

「何の事だ?」タトゥー男は粘りつくような視線で私の顔を舐めるように見据える。

「おい俺の女に何してんだよ」

背後から声を掛けられる。

振り向くと、小鳥遊が立っていた。

その一歩引いた後ろにコウもいる。

ポケットに手を突っ込んでいつものように高見の見物に乗じるつもりのようだ。

小鳥遊は黒いトレンチコートにグレーのスーツを着たお仕事仕様の好青年スタイルだ。

男達と比べると、見るからに線も細く弱そうに見えて、さっきの台詞は完全にいきっているように聞こえてしまう。

「俺の女って何だよ」コウが目を細めて突っ込むと「一回言ってみたかったんです」と言って小鳥遊はてへっと笑う。