「コウは尾花さんが嫌いなの?」

「いや、嫌いって訳じゃないんだけど」

コウはサラダを箸でつつきながら言い淀む。

「ちょっと偉そうだけど、話してみると天然っぽくてカワイイところもあるじゃない」

「天然?尾花さんが?」コウは目を丸くして聞き返す。

「頭はいいんでしょうけど、意外と世間知らずよね」

「そうゆう見方もあるのか」なるほど、と呟きコウはビールを煽った。

「お坊ちゃん育ちだからかしらね。実家は世田谷の地主らしいわよ」私の瞳がキラリと光る。

「下世話だね。お金持ちがそんなにいい訳?」

コウは呆れたように目をスッと細めてカレーをばくりと食べる。

「そりゃね。美味しい食事をご馳走してくれるから。でも結婚はしたくないかなー」

私は人差し指を顎に添える。

「なんで?女性って玉の輿に憧れるもんじゃないの?」

まーね、と言って私はグラスにビールを継ぎ足す。

「でもなまじお金があると面倒くさそう」私は鼻の頭に皺を寄せて言う。

「意地悪なお姑さんと小姑達にいじめられそうじゃない?お金目当てのくせに!とか言われてメイドのようにこき使われちゃったりして」

「それは富裕層に対する完全な偏見だな」コウはフッと鼻で笑う。

「そもそもお金持ち、と呼ばれる人達は穏やかな人が多い。生活に余裕があるからな」

いつもは微笑みながら聞き流すような会話なのに、コウはやたらと「お金持ち」の肩を持つ。

「あなたまさか…」私はハッと目を見張る。

コウは一瞬目視線を逸らせてビールに口を着ける。