私がお風呂からあがるとコウは着替えてリビングソファーに座っている。

ノートパソコンを開き、仕事の続きをしているようだ。

「食事は?」

「食べてない」

「あの…夕飯作ったの。よかったら食べない?」

「ん、いただこうかな」コウは嬉しそうに二コリと微笑んだ。

テーブルに夕飯の支度をする。

カレーを盛り付け、余ったトマトを使ったサラダにキャンベルスープをテーブルに並べる。

冷蔵庫から冷えたビールを取りだし、私も晩酌だけお付き合いする事にした。

二人向き合って、テーブルに座る。

「いただきます」コウは食事に手を付ける。

私はビールを飲みながらその様子をぼんやりと眺めていた。

「美味しいよ、薫」

「そう、よかった」どうやら及第点をいただいたようでホッとして口元が緩む。

「仕事は終わったの?」

「まだだよ」コウは小さく溜息をついた。

「尾花さんから明日までに報告書を仕上げるよう言われてるんだ」

コウの目が一瞬淀んだので、そう、大変ね、と軽く相槌をうつ。

そういえば、と言ってコウはチラリと私に視線を向ける。

「この間、尾花さんと食事に行ったらしいね」

「ああ、そうそう。小鳥遊くんの代わりに尾花さんが迎えに来てくれたのよ。それで夕飯をご馳走してくれるって言うから、一緒に食べて来た。超美味しいビストロのお店だったよー」

絶品だった真鯛のポアレの味を思い出して私は思わずにやけた。

「へぇ」コウの瞳に一瞬黒い影が宿る。