「まーた死んでるー」
助手席から顔を覗かせ少女は呟いた。
人が死んでいる、
まるでそれが当たり前の光景のように。
「仕方ないわ、恋愛感染症でしょ」
2016年から大流行し始めた恋愛感染症。
恋愛をすることで発症する病である。
この病気にかかると
心が蝕まわれ自分の意志とは別に
行動を起こすという恐ろしい病気なのである。
流行してから100年余り経つが
未だに治療法はわかっておらず
防衛手段としては
“恋をしない”
ということぐらいしか手立てはない。
「これぞまさに恋の病ってやつね」
運転しながら退屈そうに少女は
笑えない冗談を言った。
彼女達、恋愛デカは多感な十代の頃から
養成学校で訓練を重ねているため
外的要因からも内的要因からも
心理コントロールができるのである。
「舞愛(まいあ)、どうでもいいけど
ちゃんと前向いてシートベルト締めて。
警察がシートベルトしてないなんて
洒落にならないでしょ」
運転しながら相原華恋(あいはらかれん)は
助手席の少女を注意した。
「めんごめんごっ☆」
相棒である成瀬舞愛(なるせまいあ)は
悪びれた素振りもなく
腰を前に戻しカチッとシートベルトを
締めた。
ウぅぅーウぅぅーウぅぅー……
紅いサイレンを点滅させ
警察車両は街を突っ切っていく。
街はとっくに朝を迎え
紅い光よりも眩しく太陽が
地上を照らしていた。
「もうすぐ現場よ」
華恋は微動だにせずそういって
ハンドルを右に切った。