僕は、無言で、
風呂敷に包まれた重箱と
眼鏡入れを受け取った。
「…ふふ。」
彼女に笑顔がこぼれたのを
僕は見逃さなかった。
すると、彼女は、痛い足を
引っ込めて、
立ち上がり、
「帰ります。」
と言った。
「は?」
連れ戻しに来たんじゃないの?
彼女は足袋と草履を手に持ち、
片足裸足のまま、
足を引きずらないよう、
小刻みに歩いて、
玄関へと向かった。
「ご迷惑をおかけしました。
ありがとうございます。」
彼女は、相変わらず綺麗なお辞儀をした。
あんなにひどいことをした僕に
恨み言を言うどころか、
心配してくれるなんて。
眼鏡をする理由も全部わかってて、
こんなことをする。
君のせいで出て行ったのに、
何故ここまで世話をするんだ。
自分が情けない。