「あいつ、好きな子とはやんないの。」
くすくすと詩子さんは笑った。
そうか。
詩子さん、あなたは…
「なのに、優しいのよね。
捨てられてる人間はほっとけないのよ。
私なんか追い出せば良いのに。
気使って私に部屋譲ってんの。
一回くらいどってことないのに。
ばかだよねー。」
詩子さんは机に置いていたサングラスを付けた。
「最初っから期待なんてしてないっつーの。
私みたいな女が、
あんなお坊ちゃんとどうにかなれるわけないじゃん。
分かってるよ。
家柄がよくって?お金持ちで?
教養が身に付いてて、ワイルドに見えて品があって、
全部真逆。
私はおもちゃぐらいでいいのにさ。
人間扱いされるのが
一番きついわ。」
詩子さんの肩が震えていた。
「ごめん。僕ってやっぱり鈍感だ。
シュウくんのこと好きだったんだね。」
僕は間抜けににも
言ってしまったんだ。
彼女のサングラスの間から、
大量に出てくる涙は、
僕にその発言を後悔させたんだ。