「いつまで寝てるの!早く水をくんできなさい!」

 少女がそれに返事をし、階段を下りていくと、開け放たれた部屋の扉から男の苦しそうな咳が聞こえてきました。

「この人がはやり病になったのも、元はといえば、あれがこの家にいるせいだよ。あれはこの家の、いや、この村の疫病神だ!となりのばあさんも、向かいの子供たちも発病してるし、すぐに逝ってしまうよ。」

 女はわざと少女に聞こえるように言っているのです。

 空がきれいだと少女も聞こえるように言っているのですから、別に気にすることではありませんが。

 少女は支度を済ませると水を汲みに小川へ向かいました。

 えっ、川は村にはないんじゃないかって?

 そのとおり。

 この村の住人に青色の川で水をくむ勇気のある人はほとんどいませんし、村にあった小川はとうの昔に埋められてしまいました。

 少女が向かったのは村から何キロも離れたところにある森の中の小川でした。

 少女を忌み嫌う村人のために、少女は毎日生活の水をくみに行くのです。

 大きな荷台に大きな樽を乗せて、少女はやっと昼になる前に森の入り口に着きました。

 その耳に小川のせせらぎが聞こえてきます。

 少女は一気に小川まで荷台を引っ張っていきました。

 そしてついに、太い木々の向こう、視界を右から左へ流れていく穏やかな小川にたどり着きました。