「美咲…、顔をあげて」

「やだ、顔、ぐちゃぐちゃなんだもん」

「ほら、顔見せてみろ」

「……」

顔をあげた私の頬を撫で

「やっと、好きだって言ったな。口にしてしまえば楽になっただろう。まぁ、こんなに泣くほど俺を好きだとは思わなかったけど…」

優しく微笑む大河の顔が近づいてきて唇にキスを落としていく。

勝ち誇る男の離れいく唇が憎らしくて

「…私だってこんなに好きになると思わなかった」

男を恨めし気に見つめた。

「クックク…出会った瞬間からこうなる運命だったんだ。そろそろ俺の女になれよ」

そう言って大河は私をぎゅっと抱きしめてきた。

「…私、きっと独占欲強いよ。それに、意外と嫉妬深いし、それで、別れるって言っても離してあげないんだからね」

「望むところだ…俺だってお前を離すかよ」

おでこ同士をくっつけてお互いに微笑むと自然と2人の唇が重なり、何度もお互いの唇を重ね愛しい相手の存在を確かめていた。

結局、その日も大河の部屋に連れて行かれたくさんのキスと甘い囁きをくれただけで、それ以上の関係まで行かなかった。
大河に抱きしめられ温もりを感じたまま目覚めた朝。

寝息を立てる愛しい男の腕の中にいる幸せが、こんなにいいものだと思わなかった。

ふと、男が口にした言葉を思い出し、大河もこんな気持ちだったんだと頬が緩んでいると、抱きしめる腕に力が入る。

「……おはよう、美咲」

「おはよう、大河」

私の髪に指を入れ、頬にかかる髪をかきあげて、顔の輪郭を確かめるように頬からアゴにかけて撫でる男の手にされるがままじっとして待っていると、男の指先が唇をなぞり催促する。

「美咲からのキス待ってるんだけど…」

なぜ?
キスしたいのは大河じゃないの⁈

「してくれないのか?」

男が私を抱きしめたまま横向きの体をひねり、体勢を変えることで私は大河の上にいる。

がっしりと背をホールドされた体と男の間にある私の両腕だけが2人の距離を保っていた。

戸惑う体勢と距離に目をまばたきしていると、待ちわびる男が憎らしく笑っている。

恥ずかしい体勢に頬が赤くなっているのが自分でもわかる。そんな私に意地悪して反応を楽しんでいる男にムカついて、絶対してやらないって決めた。

「私から絶対しないわよ」

どうせ、大河からガマンできなくてしてくるんだから…

「へぇー、わかった。美咲からキスしてくるまで俺からはしない」