ーー「あの…広瀬 夕さんの病室は…」

◇◇◇◇
「205室か。ここかな?」

そっとドアに手を伸ばす。

指先が震えていたけれど、構わず開けた。

「ゆ、夕。久しぶり!」

「…日向」

微かに、夕が私の名を呼んだ。

「夕。体大丈夫?これ、ドロップ。」

カシャンッ。

机に置いたドロップは、床に落ちた。

「あ…あとね!これ、授業のノート。」

渡した途端、ゴミ箱に投げ捨てられた。

「……また明日来るね。ばいばい」

私が手を振ると、夕は目も合わせずに言った。

「もう2度と来ないで。顔も見たくない」

聞こえないフリをして、病室を抜け出す。

しばらく病院のベンチに腰掛けていた。

時計を見ると、もう8時を過ぎていたから、家に帰ることにした。

病院の最寄りの駅まで歩く。