総合大学、野球場そばの桜の木の下で、木漏れ日を浴びながらお弁当を食べる。

 楽しそうな声と笑顔で結衣の周りは満たされていた。

 春奈が家庭教師のバイト先であった面白い出来事を話しはじめると、洋子も美香も目をキラキラさせながら耳を傾ける。

 結衣も笑いながら、ふわふわの卵焼きを口の中に入れる。

(わたしも頑張れるかな)

 アレキサンダーがログアウトしたときにユイに見せた満足そうな笑顔。

 それは私生活が充実してるからこその、心から『オートマトン -Online-』を楽しんで引退しいくプレイヤーの顔だった。

(わたしもあんな風に引退したいな)

 春奈の話に洋子が食べていたヨーグルトを噴出して美香のきれいな服にかかった。

「ちょっとー!!!」

「ごめんごめん」

 洋子はそれでも笑いが止まらずに、ヨーグルトをふき取りながら今にも転げまわりそうだ。

 美香も釣られて笑い出す。

「もぉぉぉ」

「それでね」

 春奈も笑いながら話の続きを始める。

(こんな風に私も笑えるようにならなきゃ。忘れたい記憶や目の前の現実から逃げてちゃだめだ。もっと、強くならなきゃ)

 結衣は気合を入れて噛んでいた卵焼きを飲み込んだ。