ぽっかりと開いた古墳の入り口を潜り抜けると石の壁で囲まれた薄暗い部屋があった。

 壊れた石の棺が4つ並んでいる。

 その奥の壁には縦に亀裂が入り、風の抜けるような音がしている。

「ついて来て」

 アレキサンダーがその亀裂に体を滑らせた。

 亀裂に顔を近づけると、風が結衣の前髪を微かに揺らした。

 無意識に呼吸を止め、背筋を伸ばして亀裂に入る。

「階段になってるから足元気をつけて」

 近くで発せられたアレキサンダーの声が反響する。

 天井は思いのほか低く、通路はどこまでも長い。

「暗くてほとんど見えない」

 結衣がアレキサンダーの背中に手を置きながら、階段を慎重に下りていく。

「夜だから昼間以上に見えないな」

 アレキサンダーが弓を構える動作が伝わってくる。

 ひゅっと射る音と共に甲高い蝙蝠の声が木霊した。

 歩き続けるアレキサンダーの背中に、ユイは黙ってついていく。

「カウンセリング順調?」

 アレキサンダーはモンスターに気を配りながらも、穏やかな声で言った。

「まあまあかな。昨日で3回目のカウンセリングだったんだけど、とくにまだ手ごたえみたいなものは何も感じない。世間話みたいな会話をして毎回終ってる気もするし。でも、まあ、なにもしてないよりは気持ちは安定してるよ」

「そうか。……カウンセリングのことリアルフレには話してる?」

「うん、親しい子にはね。なんで?」

「いや、もし俺にしか言えてないなら」

 アレキサンダーは再び弓を構えて、前方の蝙蝠に放つ。

 一撃で仕留められなくとも、蝙蝠の攻撃対象がアレキサンダーに固定されるためにユイはまったく戦わずにすんでいる。

「俺が引退した後、カウンセリングのことを話す相手が1人もいなくなったら、って」