青々と葉を茂らせた桜の並木道。

 校舎と校舎の間にある長いこの道を、学生は四季を感じながら通り過ぎる。

 4月、満開の桜の下。はれて大学生となった新入生をサークルへ勧誘しようと入学式が行われる講堂があるこの道を在学生が埋め尽くす。

 5月、新しく組んだ講義のスケジュールに慣れるまで、教室番号を手に持って校舎から校舎へ駆け足で移動する。

 6月、降り続く陰気な雨に1人暮らしの生徒は寂しさを覚え、傘を手に並木道を無言で通り過ぎる。

 7月、夏休みを前にしたこの月。授業の数も減り、あとはレポートの提出、または数回のテストを残すだけとなり、道を行く足取りがようやっと、ゆったりしたものとなる。

 木漏れ日を浴びながら、結衣と美香もまた、ゆったりと並木道を歩いていた。

 清しい風が通り過ぎると、葉と葉がこすれサワサワと音が鳴った。

「はぁ、最後の大学のテストが終わっちゃったよ」

 美香が少し切なそうな声を出しながら、長いまつげを伏せて軽く微笑んだ。

「4年の後期は授業取らないの?」

 結衣は美香の白い顔に木漏れ日がチラチラと当たって揺れているのを見つめた。

「卒業に必要な単位は取れてるから、もういいかな。後期は公務員の試験勉強を集中してやってると思う」

「彼と?」

 結衣の問いに美香はきれいな笑顔でうなずいた。

「大学は別だけど、同じ資格の学校に通ってるからデートの時間がなんとか作れてうれしいよ。結衣は?七夕祭りは祥平くんと行ったの?」

「うーん、お祭りは音だけ聞いたよ」

 結衣はおぼつかない足取りで、頭上にかぶさる木々の葉を見上げながら答える。

「会うには会ってたんだけどね、個室のネットカフェで。窓の外からお祭りの音だけは聞こえてた」

「そっか」

「私、カウンセリング通い出したでしょ?それで、祥平が俺もなにか手伝いたいって言ってくれて、一緒にネットの求人を探してくれたんだ。まぁ、結果的にはだめだったんだけど」

 美香の表情が曇りそうになるのを見つけて、結衣は慌てて付け加える。

「で、でもね。ネットゲームの中ではいっぱいデートしたよ」