『狩野さん、これもう教えたわよね』

 結衣の脳裏に元バイト先のお局の声が鮮明に蘇る。

『同期の子はできるのに、どうしてあなただけできないの?』

(私は……)

『何回も言わせないでよ!』

(私は、教えてもらってません)

『狩野さんって私のこと嫌いなんでしょ?』

(嫌いだけどそんなの仕事に関係ないでしょ、好き嫌いなんてどうだっていいわ)

『これは私の失敗じゃなくて狩野さんが間違ったんです』

(私は間違ってない!)

 結衣は、がばっと毛布を剥いで、天井を見つめた。

 息が苦しくなって胸が冷たくなる。

 小さな頃から変わらない白い壁の天井を、濡れた目で意味もなく見つめ続ける。

 スズメの声が頭上の窓から途切れることなく聞こえてくる。

(もう、忘れたいのに……なんで、オートマトンやめたとたんに思い出すのよ)

 朝日が差し込み、天井が徐々に明るくなっていく。

 リアルの時間はやけに進むのが遅い。

(どうしたらいいのか、わからないよ……求人広告を目にするだけで気持ち悪くなるのに、どうやって仕事なんて見つければいいんだろう。そういえば、春奈、内定もらえたんだよね。就活がんばってたもんなぁ、私は……私は、とりあえずシャテラリア国を目指さなきゃ。それから、アレキサンダーさんとも遊ばないと。あとは、またミリンさんにも会いに行って、キャスケットさんが帰ってくるまでにレベルもいっぱい上げておかないと)

 結衣は脳の中に太陽神界を必死で思い描いた。

(私はユイ。からくり人形のアルメェールと一緒にシャテラリア国を目指して旅をしている冒険者)

 結衣は再びふとんをかぶって、ぎゅうっと目をつむった。