「……いや、なんだか、びっくりしすぎて。アレくんってやめそうになかったから」

「わたし、も、びっくりして、今なに言っていいかわからなかった。……つまりキャスケットさんは1ヶ月したら戻ってくるけど、それと同時にアレキサンダーさんが引退するってこと?」

「うん」

 キャスケットはユイにうなずいた後、アレキサンダーを見上げる。

「じゃあ、わたしは今日でアレくんに会うの最後になる可能性もあるわよね」

「なくはないな。それはお互いしだいだから、最後はどんなに忙しくても会おう」

「約束ね」

 そう言いながら微笑んだキャスケットを、ユイは見つめた。

 キャラクターだからあいまいな表情はできない。

 リアルのキャスケットは、本当は泣きそうな顔をしているのではないだろうか。

 ネットの世界の約束がどれほど儚いか、ユイは想像してますます悲しくなった。

「ああ、時間がないわ。もう落ちるけど、アレくんもユイも、入れられたらメッセージ入れるね」

「わかった」

「キャスケットさん」

 キャスケットがユイに視線を合わせる。

「1ヵ月後に、キャスケットさんが帰ってくるのを待ってます。メールもしますね!」

 キャスケットが笑顔でうなずいた瞬間、その姿がすっと消えた。

「ログアウトしたな」

「……」

「ユイさん?もしかして、フレがこうなること、予期してなかったとか?」

 ユイは俯いたままコクリと頷いた。