「あわわわわわ」

 ユイが慌てて竿を握るが、アレキサンダーのようにうまく竿を操れず、左右に激しく振られてしまう。

「こいつは、もしかして…」

 アレキサンダーの意味深な口調に、ユイはますます焦る。

「やばいんですか?リリースしたほうがいいんでしょうか!!?」

「できればしたほうがいいけど、こいつはできない」

 アレキサンダーがそう言い終えると同時に、竿が急に軽くなった。

「…あれ?」

 ユイは船から身を乗り出すように海面を覗き込んだ。

「来るぞ」

「!!!!」

 アレキサンダーが指し示した海上がいきなり山のように盛り上がり、海水がその山肌を流れるように滑り落ちた。

「ひゃ…」

 真っ黒い巨大な鯨が海上に姿を現した。

 その頭にはユイの体の2倍はありそうな1本の角が生えている。

「イッカクだ」

 アレキサンダーがユイの腕をつかみ、船室の手前まで逃げると、イッカクが海面から甲板に跳ね上がってきた。

「うそー!!!」

「ユイさん、オートマトンを!」

「は、はい」

 ユイはすぐさまアルメェールに攻撃命令を出した。

 アレキサンダーはイッカクの注意がユイに行かないよう、すばやく弓を放って挑発する。

 アルメェールは戦士タイプのからくり人形特有の、腰にさした片手剣を抜いて、カシャカシャとイッカクに向かっていく。

 ユイも短剣を両手に構えて、躊躇なく参戦した。

 その姿を見てアレキサンダーが感嘆の声を上げる。

「おっ、この間よりも格段にレベル上がってるな」

「はい、みんなとどこか行くのにもレベル低いと不便だなって思って、レベル上げがんばりました!」