予想もしていなかった問いに結衣は動揺しながら言う。

「そんなことないよ、たまたま祥平が電話くれたとき、ネットからちょっと手が離せなかっただけで」

「ネットねぇ……」

 祥平は芝生に足を投げ出して、両手を後ろについた。

「俺たちさ、つきあってもう4年経つし、お互い新しく知るようなことも、ないよな」

 結衣は、空を見上げながらゆっくりと言葉を吐き出していく祥平の横顔を見つめる。

「……おそらく、今の状況が1年後なら、俺は仕事もしてるだろうし、結婚してもいいんだけど、いまはできないからな。だから、この1年、関係を保てるかが勝負なんだ」

「それって何?プロポーズ?」

 結衣の問いに祥平は微かに首を横に振ったように見えた。

 初夏の日差しの中。

 すぐ近くの噴水のしぶきが風に乗り、結衣のむき出しの腕をわずかに湿らす。

「ねぇ、連絡取れなかったのって2週間でしょ?祥平の方こそ教育実習の間、私が電話しても出てくれなかったじゃない?」

「あの時とは違うよ」

 祥平の乾いた声に、結衣はキャスケットの姿を思い描いた。

 祥平はこんなにも近くにいるのに、ネット上でしか会えないキャスケットの方がよほど近くに感じられる。

「まだ、前のバイトのこと、思い出す?」

 祥平が歩み寄るような言葉を発した。

「……ネットしてないときはね」

 結衣は強張ったような声で言葉を返す。

「ネットサーフィンでもしてるのか?」

 祥平は結衣を現実に引き戻すように、硬い声で問いかけた。目が合うと、まっすぐな視線が耐え難くなり、結衣は噴水の水しぶきに視線を逃がした。

「まぁ、そんなとこ」

「ふーん」

 祥平はすくっと立ち上がり、クロスを再び背負った。

「とりあえず」

 祥平は理性を保つような声で言った。

「俺は今、別れる気ないから」

 そして怒ったような背中でグランドの方へ歩き出した。