「んーわからない。なんか聞いちゃいけない暗黙のルールみたいなのがある感じがするよ。それに……変に聞こえるかもしれないけど、知りたくない気もするの」

「なんで?」

 洋子が拾ったタコウィンナーについた草をはらい落としながら言った。

「キャスケットさんを操ってる人間が、リアルにいるのはもちろん分かってるんだけど、なんとなく、ゲームの中のキャラクターってイメージも強くて。その方が連絡取るときも不思議な感じがして楽しいんだ」

 結衣は食べ終わったサンドイッチの包み紙を、くしゃくしゃにしながら続ける。

「本当にね、ヘッドギアを装着して『オートマトン –Online-』を始めちゃうと、わたしもキャラクターの1人になって、太陽神界に生きているような気になってくるの。とてもリアリティーのある世界なんだ。1日が朝日とともに始まって、食べ物も自分で素材を取ってきて調理して食べれるし、海岸には毎日違う場所に貝殻が落ちててそれを拾うこともできるし、フレと夜に月や星を眺めることもできる。敵を倒してお金を稼いで、可愛い洋服や強い装備を買って、使わなくなったら他のプレイヤーに買い取ってもらったり」

「そんなこともできるんだ」

 洋子も興味がでてきたように、目を丸くさせて言った。

「うん、面白いでしょ?太陽神界が本当の世界ならいいのにって、何度思ったか」

「ふぅーん」と言って、美香は考えながら結衣の言葉を聞いている。

「いまは1分でも惜しいくらい早く太陽神界に行きたいよ。もう、2限目の休みがもったなくって。3限の授業が早くはじまれば、その分早く帰れて、太陽神界に行けるのに」

 美香はみんなの輪の真ん中に視線を落としたまま、口を開いた。

「面白そうでいいけど、でも、結衣。顔の見える友人を大切にしなきゃだめだよ」

 美香が結衣をじっと見つめる。

「結衣はここで生きてるんだから」