「キャスケットって、女の子?」

 美香がペットボトルのお茶を一口、口に含んでから問いかけた。

「うん、たぶん。女のキャラクター操ってるし」

 美香がそれを聞いて軽く首を振る。

「決め付けないほうがいいよ、ネカマ(ネットで女の振りをする男)って可能性も有るから。私はゲームはしないけど、チャットでネカマよく見かけるんだよね」

「そうなんだぁ」

 春奈が感心したように美香を見た。

「でも、そうやって楽しい時間を共有できるなんてステキだね。少し心が落ち着くまでは、慌ててバイトしないほうがいいと思うよ」

「でも、だからって!」

 春奈が結衣に微笑みかけたとき、洋子が立ち上がってすごい勢いでしゃべりだした。

 新しく口に入れたばかりのタコウィンナーが落ちそうになっている。

「みんな私が代わりに出席カード記入してること忘れちゃだめだよ!大変なんだよ?2人分のカードも毎授業、記入しなきゃいけないし!」

「でも、名前と学生番号、書くだけだよね」

 美香が、しらっと言うと、ついにタコウィンナーがポンと飛び出した。

「う~~。だって、……1人だと寂しいんだもん」

 思いもしなかった告白に、春奈が「ようこぉ」と言って立ち上がり、洋子に抱きついた。

 美香と結衣は慣れた様子で、卵焼きとサンドイッチをそれぞれ租借し続けていた。

「もういいんじゃない?」

「もういいとか言わないでよ!」

 洋子は美香の言葉をはねつけながらも、おとなしく腰を下ろす。

 春奈は座りながら結衣に問いかける。

「その、キャスケットって人、本当の名前はなんていうの?」