ユイは息を呑んで、鉱石でできた空間に足を踏み入れた。

 夜の星空のような鉱石が四方八方をうめつくしている。

「きれいでしょ。ここの鉱石にはね、魔力があるんだって。太陽神界では昔、この鉱石を狙って大陸で戦争が起きた設定にもなってるみたい。」

「魔力をもった石」

 ユイはすぐ横で光っている壁の鉱石に触れてみた。

 触れた部分から白い光の粒がふわふわと舞い上がった。

「キャスケットさんが魔法をかけるときに出る光にそっくり」

「魔力の源なのよ」

 キャスケットは慣れた様子で空間の中央付近にある水晶のような色の平たい岩に腰を下ろし、ユイに手招きした。

 ユイがそのとなりに腰を据えると、オートマトンもついて来て、ユイとキャスケットの向かいに不器用に座った。鉄の小さな体が立てるカシャカシャという音が、やっと静かになる。

「この空間は採掘もできるけど、あんまり人に知られてないからプレイヤーはほとんど来ないの。来るのは、業者だけ、かな」

「業者かぁ」

「鉱石もレアなものは高く売れるからね。」

「お金のためにゲームをする人がいるなんて知らなかった」

「私も『オートマトン』を始めるまで知らなかったわ。オンラインゲームは、やっぱり普通のゲームとは違うのよ。―――ユイ、知ってる?この『オートマトン』っていうゲームには、終わりがないこと」

「終わりがない?」

「数ヶ月単位でバージョンアップがあってね、ストーリーや新しいモンスターが追加されるの。オンラインゲームのこの独特の楽しさに、はまってしまってゲームの世界から抜け出せなくなる人も多いのよ。だからね、私はこの世界で何がゲームクリアーになるのか自分で決めるのがいいのかもしれないって思ってるの」

 キャスケットの声が、心地よい大きさで空間に響いている。

「人それぞれゲームの遊び方は違うから、あくまでも私の意見なんだけどね。ゲームをやめれなくなって仕事や家庭をなくしたフレがいるから、少しだけ言っておきたくて。大きなお世話なのは分かってるから、聞き流してくれてもいいんだけど」

 キャスケットの声が完全に吸収されてから、静かになった空間にユイはゆっくり言葉を放った。