「アイスクリーム販売スタッフ(時給850円)。うーん、850Goldならすぐ稼げるのになぁ。うう寒い。……コート、お店においてくるんじゃなかった」

 結衣が長袖の腕を擦りながら、駅の改札近くで掲示板を見上げながら立っていると美香が「ごめーん」と言いながら結衣の下に駆け寄ってきた。

「ごめんね、バイト長引いちゃって」

「美香、寒いよぉ」

 結衣は恨めしそうに美香のコートに擦り寄る。

「ごめんね、迎えに来てくれてありがとう。―――結衣の荷物は?」

「うん?お店においてあるよ。行こう」

 結衣は美香のコートの袖をつまんだまま、小走りに駅の階段を下りていく。

「春奈と洋子も、もう来てるの?」

 美香は結衣のペースに合わせながら問いかけた。

「うん」

 駅の外はもう真っ暗で、商店街のお店はすでにシャッターが下りており、控えめな街灯だけがぽつぽつと明かりを灯していた。

 静かな線路沿いを早歩きで進む。

「結衣、すごい歩けるようになったのね」

「へへ。もうね、少しだけなら走れるんだよ」

 結衣が笑顔で美香にそういうと、美香は驚きと安心が入り混じったような笑顔になった。

「よかったねぇ」

 結衣は美香の笑顔を見て、うれしくなる。

「よかったよー」

 冷たい風が顔に痛い。

「結衣、お店はどこなの?」

「あそこだよ」

 結衣がまっすぐ前方を指し示した。