「そうしようと思ってたけど」

 女は携帯の画面を見つめながら答える。

「やめたわ」

「は?前回はあんなに泣いて連れていけって必死だったくせに」

「ついていっても、結局1人なのは変わらなかった。それよりも……あなたについていくこと以外に、私、もっと大切なやるべきことがあるはずなのよ……もっと、がんばらなきゃいけない、しなければいけないことが」

 女の言葉に男は鼻で笑う。

「別に必要ないんじゃない?お前はきれいなんだから、それだけで地球の宝だよ」

「意味無いわよ……きれいって人から言われたからって、何が変わるって言うの?何も変わらないわ」

「いいんだよ、変わらなくて。他人に勝てる事はそれしかないってお前だって分かってるだろ?お前は他人と張り合うなんて向いてないんだよ。だから、それは俺に任せて、お前はそうやって綺麗でいればいい。……それともなにか?ゼロから努力して、何かを成し遂げる自信があるっていうのか?」

「……」

「ないんだろ?」

(自信なんて、ないけど……。ユイは必死に歩けるようになろうとして頑張ってるのに……)

 女は、うれしそうにはしゃぎまわっていたからくり士の姿を思い描く。

 会ったばかりの頃は本当に初心者で、あまりにも無防備で、見ていられずにPKから助けたのに。

 もう、あの頃が遠い昔のようだ。

 ユイとの会話はいつもゆっくりとしたものだった。

 こちらの反応に、ほぼ必ずと言っていいくらい1拍おいてから言葉が返ってきた。

 最初はその間が気になっていたけれど、彼女は相手を傷つけないように言葉を選び、相手に今何が必要か常に考えながら大切に文字を紡いでくれているのだと気づいてからは、ユイとの会話の雰囲気がとても心地いいものになった。