女が白地に薄紫色のラインの入ったカーテンを開くと、中の白いカーテンレース越しに、初秋の朝日が差し込んできた。

「ん、もう朝か。さっき寝たと思ったのに」

 男は苦しそうに寝返りをうつ。

「朝日、きれいね」

 女の言葉に、男は無精ひげに手を当てながら無理やりまぶたを開ける。

 ネグリジェの後姿。やわらかそうな長いハイゼル色の髪が背中の方でゆるく波を打っている。

 すらりとして、ほどよくひきしまった太ももや、華奢な肩から伸びる形のいい腕の女が逆光の中で立ち尽くしていた。

 男が見つめているのを知ってか知らずか、女は窓に手をかけ、少しだけガラス窓をあける。

 程よく冷たい風が入り、火照った体の熱を冷ますように抜けていった。

「なんとかならない?ここ空気悪くて、たばこの匂いもこもるし」

 生活感があるのは寝具の周りだけで、台所もリビングもどこか他人のような顔で黙りこくっている。

「このマンションにはめったいに帰ってこないからな」

 男は横になったまま枕もとのタバコに手を伸ばす。

「つぎはどこにいくの?」

 相変わらず背を向けたままの女に、男はゆっくりと一服してから口を開く。

「パリだよ」

「―――」

「まさか、『私と仕事とどっちが大切なの?』なんて決まりきった文句言わないよな?」

 女がきりっと振り返ろうとした瞬間、リビングの机の上にポツンと捨て置かれた携帯が、所在なげに震えはじめた。

 女は男に一瞥もくれずに、むき出しの足でスタスタと携帯をとりに行く。

 そして、携帯を手にしたまま動かなくなった女に、男は声を投げた。

「なぁ、邪魔ならシャワー浴びてくるけど?」