「じゃあ、今度はカーテンの向こうの椅子で冷却しようか」

「はいっ」

 結衣の明るい背中に向かって、高山先生は言葉をかける。

「でもあんまりリハビリ頑張られると、この整骨院が儲からなくなるんだよね」

 冗談交じりに言われた言葉に、結衣は笑いながら振り返る。

「私のこのケガは今までの人生かけてなったものだから、そんなに早く治らないのは分かってます。きっと、完全に治すには同じ時間……ううん、それこそ一生かかるかも。私、ちゃんとその覚悟でいますから、先生、長生きしてね」

 結衣のまだまだ弱々しい背中に手を乗せて、先生は平然と言ってのける。

「治ったら俺とデートしてもらわなきゃ」

「この間、子供が生まれて、すごい嬉しそうな顔してたくせに」

「なんだよ、そういうこと言うなよ」

 照れくさそうに初めて言いよどむ高山先生を、振り返らずに結衣はカーテンの向こうへ。

「狩野さん」

 それを一瞬呼び止めるように高山先生は声を発すると、両手を広げながら言った。

「ようこそ、新しい世界へ」