「おっ、表情変わってきたね」

 白いカーテンを開けるなり、整骨院の高山先生が嬉しそうな表情で、結衣に微笑みかけた。

「そんなに変わったかな」

 結衣にはそれほど実感はなかったが嬉しい言葉に、微笑を返す。

 初めてここを訪れてから2週間。

 結衣は「先生を信じて頑張る」と言ったとおりに、先生との約束事をしっかりと守った。


『約束事』

1.どんなに痛くても毎日少しずつ歩くこと
2.痛みが出たら氷嚢で冷却すること
3.規則正しい生活、および、オンラインゲームの禁止


「ゲームはそれほどやりたくなくなってきたでしょ?」

 横になった結衣の体に跨りながら、先生は手を使って股関節に圧をかけていく。

「うーん、それはまだ」

「そう。まぁ、まだ2週間だからね」

「そもそも、そういうのが好きな性格なんだよ」

「異常なほどの執着心は、性格の問題じゃないよ。君の場合は、生活の中のいろんな原因が心身に影響していて、それから逃げる手段がたまたまゲームだっただけ。だからほら」

 高山先生は指圧の終了を知らせるように、跨っていた結衣の体から離れ、結衣が身を起こすのを手伝った。

「あの精神科に通う理由だった就職活動のトラウマの件だって、別に君の性格が問題じゃないんだよ。そもそもね、体に痛みが出る前から、君の体は壊れてたんだ。今だから言うけど、ここに来た日の君の体の骨は、全身ぐっちゃぐちゃだったよ。いろんな方向にゆがんでた。そんな状態なのに正常な思考でいられるわけないだろ?簡単に言ってしまえば、悪かったのは性格や考え方じゃなく、体をゆがめてしまうほどの、悪い生活習慣だったんだ」

「じゃあ」

 結衣はベットに腰をかけた状態で、苦笑しながら先生を見上げる。

「精神科の通院は無駄だったの?」