ユイは一瞬の浮遊感の後に、なにか硬いものにぶつかった気がした。

 なんとか自分の足で立ち、ぐるぐるする視界を立て直す。

 コロナタが戻ってきたんだ。

 ぜんぜん気づかなかった。

「キャス、ケットさんは……」

 視線を上げれば明らかに強そうな装備のプレイヤーが、ユイに冷たい視線を送っていた。

 自分の体が完全に寄りかかってしまっていた。

「あっごめんなさい」

「なんだよ、吹っ飛ばされただけで殺されないで生き残ってやんの。後がつかえてるんだ、勝てないならさっさと逃げろよ」

「なに、よ。それ」

 後がつかえてる?

 ユイは突然たくさんの気配を感じて辺りを見回した。

 広場でコロナタと対峙しているキャスケットを遠巻きに、何人ものプレイヤーが何もせずに戦いが終るのを眺めている。

 さっきまで誰もいなかったのに。

「コロナタがいるのよ!!なんで誰も助けないの?!!」

「助ける?なんのために。ほら、戦わないなら俺がお前を殺してやってもいいんだぞ」

 ユイの首に戦士のむきだしの斧があてがわれた。

 こんな時にPK?!

 かんざしの魔法はさっき使い切ってしまったから、もう死んだら自力で蘇れない。

 ユイがぎゅっと目をつむったとたん、どさっと近くで音がした。

「ああ!!!!!」

 目を開いたユイの視界で、3日前に甲板で会った赤いレギンスの男が細身の剣を、倒れたプレイヤーから引き抜いていた。

「あの時のプレイヤーキラー!」

「なんだよ、助けてやったのに。……それにしても、おいしそうなモンスターと戦ってんじゃん。俺もあんたらのパーティー(仲間)に入れてくれよ。助けてやる代わりにあのサルの戦利品は山分けな。それから―――」

 レギンスの男はレアモンスターのほうに剣を傾けながら言った。

「―――プレイヤーキラーなんてダサい名前で呼ぶな。俺の名はルーク。太陽神界で3本の指に入る魔法戦士だ」