結衣は訝しりながら読んでいく。

「…うっわぁ、こんなことってあるの?!」

「どうしたの?」

「……これって、もしかして投函された日が違う?」

 結衣は二つの封筒の消印を確認する。

 黒いインクで押された消印は、予測どおり3日もずれている。

「今忠先生からの手紙が先に来てるんだ」

「なにか、問題なの?」

「問題も何も……この白い封筒の差出人は、先生の代理人なんだって。それで、手紙によると、あの病院、閉鎖するらしい」

「どうして?!!!」

「よくわからないけど、今忠先生がどうやら条例で決められた会議への出席を拒み続けてたらしくて、それが条例違反になって、今回注意を受けたから自主的に病院を閉鎖することにしたんだって…」

「はぁぁぁ?それで、どうしたらいいって?」

「カウンセリングの先生の引継ぎはしないけど、患者個人のカルテは受け取れるみたいで、必要なら連絡してくれって書いてある」

「そんなの、絶対返してもらわなきゃだめよ!それに、おかしいじゃない!その病院!!」

「うん…」

 結衣はビーフンの残りが乗った皿にサランラップをかけて冷蔵庫にしまう。

「これ、あした食べるから」

「お風呂は?」

「あとで入る」

 自分の部屋に続く階段を上がりはじめた結衣の耳に、母のため息が微かに聞こえた。

 足を止めて階段の途中から母を伺う。

 2通の封筒を手に持ち、私よりも細い肩を力なく下げて、キッチンの蛍光灯の下で佇んでいた。

(おかあさん……)

 蛍光灯に照らされた髪は少なく、白髪が頭部全体を白く浮かび上がらせている。

(ごめんね、おかあさん……。これからリハビリがんばるから。体も心も強くなるから。もう少しだけ、時間をください)