「原因はたくさんあるよ。小さなときから運動量が足りなくてしっかりとした骨格を形成できなかったこと。それを補う努力をしてこなかったこと。外にもあまり出なかったんじゃないかな?それに、ここ最近ひきこもったりしてなかったかな?筋肉が弱って、歩かないせいで骨は正常の位置に戻ることができずに、日に日にそれも確実に、外れていった」
「……」
「あとは、彼との体格差。彼は背丈があるし、スポーツもしてるようだから筋肉がついていて体重差がかなりあるだろ?夜の営みをするときは気をつけないといけない。股関節にはかなり負担がかかるからね。―――狩野さん、真剣な話だよ」
先生は俯いてしまった結衣の顔を上げさせる。
「一番の原因はわかるかい?―――すべては君が悪い」
「え?」
先生はいきなり厳しい顔つきになり、結衣を鋭い視線で凝視する。
「君はもしかしたら、まじめな子かもしれない。勉強もしっかりして学生生活をがんばってきたかもしれない。確かに新しい知識を吸収することは楽しいだろう?でもね、何事も偏りすぎちゃだめなんだ。目を背けたい現実から逃げて、自分のしたいことばかりしていると、こういう体になってしまう。人から言われたことをまじめにやってきたとしても、それにどんなに成績が良くても、自分を大切にできなきゃ体を壊して、結果こうして社会からおいていかれることになるんだよ。この怪我の原因も、いま感じてる心身の苦痛も、すべて、君が悪いんだ」
「―――」
結衣は耳を塞ぎたくなるのを必死に堪えた。
(わかってる)
体に激痛が走るたびに、頭の隅に浮かび上がる一抹の答え。逃げ続けたことによる代償。
二度と取り戻せない健康な体。
「―――」
「でも、狩野さん」
先生は結衣の虚ろな視線を無理やり捕まえて、声高に言い放つ。
「僕が絶対に動けるようにしてあげる。元気に大学に通って、ばりばり働ける体にしてあげるから!僕は君の家族や彼氏の次に、君のことを思って、一生懸命、君が治るようにやっていく!だから一緒に頑張ろう」