先生は宙吊りになった等身大の白い骨格標本を結衣たちの目の前に移動させた。

 骨と骨がぶつかってカラカラと音を立てる。

「見てもらえば分かるけど、骨はすべてがそれぞれのきまった位置で、絶妙な力加減で支えあって成り立っている。例えば、ここの骨を―――」

 先生は右の大腿骨を掴み、骨盤から少しはずしてみせた。

「こうしてずらしてみると、背骨の下の―――」

 尾てい骨から首までの骨が、見る見るうちに歪んでいく。

「こうなると、右足は動かせば痛いのは当たり前だし、頭のすぐ下の首の骨まで、ずれてるから頭痛もひっきりなしにする。」

「ああ、頭痛は常にしてます」

「だろうね。それから肋骨も左右で開き具合が変わってくるから、これだと左の肋骨が開いて体内に余裕ができる分、心臓が肥大しやすくなるし、肺が十分に膨らまないから、呼吸もうまくできてないはず。たまに外を歩いてて、息苦しくなって、深呼吸したりしてるでしょ?」

「してます…それに、去年の大学の健康診断で、心臓が人より大きいから気をつけてって注意されました。」

「うん」

 先生は腕を組んで深くうなずいた。

「原因はなんですか?」

「車にはねられたことで最後のひと押しになったことは確かだけど、骨の状態を見ると、どうやら長い時間をかけてゆっくりと股関節と骨盤が開いてこうなってしまったようだよ。はねられて足が外れただけなら、ポンと入れてしまえば、すむことなんだけど、君の場合、それをすると体が壊れてしまう」

 先生は結衣の目をじっと見つめながら続ける。