「もっと痛いことするのかと思ってました」

 結衣は長いすに腰をかけて、先生が机に向かって記入するのを見ていた。

「してほしいならするけど?俺、Sだから」

 背を向けたまま平然と言う先生に、びっくりしながら結衣は答える。

「遠慮します」

「なんで?Mのくせに」

 先生が椅子をくるりと動かし、結衣にまっすぐ向き直った。

「それじゃあ、いままでケガに対して疑問に思ってたことがいっぱいあると思うけど、いまから全部聞いてくれていいよ」

「え…その前に、少し触ったり動かしたりしただけで、MRIとかとったりもしてないのに、体の中のこと分かるんですか??」

「いままで病院でそういう検査ばかりしてきた人はそう思って当然だし、信じられないかもしれないね。―――ためしに何でもいいから僕に聞いてごらん」

 結衣はそれに1拍もおかずに、体からの訴えをそのまま口にする。

「痛みは取れますか?1秒でもいいから、痛みの無い時間が欲しいです」

「……それなら、あと3日もあれば痛みのない時間ができるよ」

(えっ……なに、その具体的な数字。絶対答えられないと思ってたのに)

「じゃあ、なんで痛いんですか。病院では異常ないって言われたのに。それに、この痛みの原因は何ですか?車にはねられてからこうなったのに、病院では関係ないって」

「そこが1番不安だろうね。せっかくだから、付き添いで来てるのは彼氏かな?一緒に聞いてもらおうか?」

 先生がすくと立ち上がって祥平を連れて戻ってくる。

 祥平は結衣のとなりに腰を下ろす。