(ユイだったら、こんなのヒョイヒョイって上がっていけるのに)

 結衣は、駅の入り口に連なっている長い階段を呆然と見上げた。

(どうしよう…絶対1つの段でも、足持ち上げた瞬間に激痛が走るよ…)

「結衣、向こうにエレベーターあるからそっちから行こう」

「うん」

 背に軽く添えられた祥平の手に支えられて、結衣はゆっくりと歩き出した。

「あそこは予約できないんだっけ?」

 祥平はいつもの口調で結衣に問いかけた。

「予約はいちおあるみたいだけど、余計にお金がかかっちゃうから」

「ふーん。保健はきくのか?」

「たぶんね。きかなかったら、お金足りないかも」

「俺、結衣の家に、迎えに行く前に貯金下ろしてきたから、大丈夫だよ」

 エレベーターの前まで来ると、ちょうど人が乗り込むところだった。

「たぶんお金足りると思うから平気よ」

 できるだけ人にぶつからないように注意しながら、エレベーターの1番奥に立った。

「結衣、10円しか持ってないんだろ」

「そんなわけないでしょ」

 結衣が祥平を見上げると、エレベーターは、ぐぅんと持ち上がり、透明なガラスの窓越しに、古いおもちゃのような商店街が見えた。視線は勝手に、上へ上へと移動していく。

 よく晴れた綺麗な日だ。

「体が治ったら、どこか旅行しようか」

 商店街のはるか向こうに、いつもの山が見えた。

「治るかな?」

 エレベーターが止まって扉が開く。

 いそいそと人が降りていく。

「それは結衣次第だよ」