「別に」

 ルークは剣を抱えたまま動かない。

 キャラクターを作り直して、名前を変えてしまえばいい。

 それならすぐにこの状況から抜け出せ、ゲームを楽しむことができる。

 しかし、ユイ自身が身を持って、それがとてもしがたいことだと分かっていた。

 現実から逃避するためのキャラクターとして、ずいぶんと楽しい思いをしてきた。このキャラクターを通して会話をし、この容姿で他プレイヤーからユイだと認識される。

 キャラクターはいわば、もう1人の自分だ。

「もう『オートマトン -Online-』やめようと思ってた」

 ルークの横顔は髪に隠れてほとんど見えない。

「でも、お前もあの回復魔道士も―――」

 短々と紡ぎだされる言葉は、とても悲しくユイの胸に響いてくる。

「―――何も言わずに、突然ログインしなくなったから」

「キャスケさんは最近入るようになったみたいだけど、リアル生活がまだ忙しいみたいだし、私は、実は、怪我して昨日まで入院してたの」

「……怪我?」

「うん、車にはねられた(笑)」

「ひどいのか?」

「……ログインぐらいはできるよ。ねぇ、せっかく会えたんだし、プレイヤーのいなそうなエリアにでも遊びに行こうよ」

 ユイがルークの顔を良く見ようとしたとき、ガヤガヤと人が動く音が、横穴の入り口の方からしはじめた。

 ルークが顔を上げて立ち上がる。

 見たことも無いような怖い顔になっていた。