全身白い毛で覆われた巨大な猿。

 唯一黒い皮膚が見えている顔には、狂気の光を帯びた双眸。

 その視線は明らかに、キャスケットをとらえていた。

 今のキャスケットなら一撃で殺されてしまう。

 瞬間的にそう悟ったユイは全力で走り出した。

 一瞬の躊躇もなく、キャスケットの上に覆いかぶさる。

「ユイ!」

「これでいいの!!」

 キャスケットはユイの強張った顔を見た。

 ユイの背中にとんでもなく破壊力に満ちた爪が振り下ろされた。

 ユイは一瞬にして倒され動けなくなった。

 キャスケットは叫びだしそうな口を押さえ、ユイの体の下に隠れるようにして息を潜め続けた。

 巨大なモンスターは鋭い歯をむき出しにして一度吼える。まるで戦い足りないと言わんばかりの声だ。

 モンスターは獲物が残っていないか、広場をドシドシと歩き出す。

 なおもキャスケットが気配を消していると、少しずつ遠ざかり、森林の中へ戻りはじめた。

 その姿が完全に視界から消えるのを待って、キャスケットはユイの体の下から起きだした。

 それと同時にユイから雪のような光のつぶが上り始めた。

 ユイの髪のかんざしについたルビーがキラキラと赤い光を放っている。

 そして―――