入院13日目。

 結局、下半身の痛みは少しの変化もなく、1週間では退院できなかった。

「じゃあ、結衣はまだまだ退院できないの?」

 美香は病院の談話室で、ふかふかのソファーに座りながら結衣に問いかけた。

 夏の長い1日が終ろうとしていた。

 整然と横1列にならんだ窓からは、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。

「それなんだけど、今朝、担当の先生に言って、明日退院させてもらうことにしたんだ」

 結衣は美香に手伝ってもらい、浴びたばかりのシャワーで濡れた髪をタオルで拭きながら答えた。

「そんなこと自分で決めちゃっていいの?」

「いいんだよ」

 結衣の薄いピンクのパジャマまで夕日色に染まっている。

「痛み止めの注射打つだけなら、通院でもできるからね」

 美香は隣で座っている結衣の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 結衣は美香に微笑みかける。

「きっとまた、普通の人みたいに動けるようになるよね」

「そうだよ、なるよ」

 美香が腕時計をちらりと確認する動作を見て、結衣は口を開いた。

「時間平気?」

「うん。今日、祥平くんお見舞いに来るんだよね?」

 美香は結衣がうなずくのを待って、ごそごそと紙袋をひざの上に引き寄せた。

「結衣のためにもってきてあげたの」

「何を?」

「浴衣。毎年、鮎川の花火大会、楽しみにしてたでしょ?」

 おどろいた顔の結衣を見つめながら、美香は続ける。

「知ってた?花火大会は今日なのよ?体に悪いから、行きなとは言わない。でも、この浴衣着て、ここで祥平君に会うことぐらいならできるでしょ?」

「ありがとう」

 結衣はそう答えながら笑い出す。

「でもさ、病院で浴衣着たら、異様に目立つ気がするんだけど」

「いいんじゃない?」