「―――狩野さん」

 すぐに白衣を着た医者がやってきた。

 額には汗が噴出している。

「どーお?」

 恐る恐るといった様子で医者は尋ねた。

「足が痛いんだって?」

「はい、1ミリ動かしてみただけで太ももが」

「んー」

 医者はむき出しの両足の親指を触る。

「これ、右と左感触違う?」

「特には…」

「ここも痛くない?」

 医者が右のふくらはぎの外側を撫でた。

「痛いです」

「んー、診断はご両親には話したんだけどね。狩野さんは、車にはねられてここに運ばれたんだけど、外傷は擦り傷程度でね、念のためにMRIで衝突した下半身を調べてみたんだけど、何の異常も無かったのね。だから、痛みが出るはず無いんだ」

「え」

 わたしはもう1度右足をわずかに上に持ち上げてみた。

「いっ!!!!」

 再び恐ろしい痛みが走り、思いっきり目をつむる。

「おかしいなぁ、とりあえず麻酔の痛み止めだけ注射してみる?」

「これはなんで痛いんですか?」

「うーん、痛みが出てる場所から推測すると、腰の神経が背骨から少し飛び出てるのかもしれない。でも君ぐらいの年齢なら、手術はしないほうがいいし」

「じゃあ、注射していれば良くなるんですか?それとも他に、良くなる方法とか、こうしたらだめとか、ありますか?」

「んー、なんとも言えない」

(は?)

「1週間ほど入院して様子を見ようか」

 すぐに用意された注射は足の神経に繋がる尾てい骨のそばにうたれた。

(まぁ、医者がこういうんだし1週間ぐらいの入院ならきっと大したことないよね。特に大変そうな言い方はしてないし、すぐ治るよ)

 太ももを掛け布団の中にしまって、仰向けになって目を閉じる。

(あぁぁ、痛い。それにしても、まだ夏休みでよかった……っていうか、もしかしなくても『オートマトン』に入れない!!!?どうしよう……キャスケさんにはメールでしばらく入れないって伝えられるけど、ミリンさんや他のみんなには連絡できないし。……あれ、そういえば私の荷物…)