夏の夕暮れに照らされた小学校の通学路を、ランドセルを背負った少女が1人、ゆっくり前から歩いてくる。

 チリン、チリン。

 チリン。

 大きな鈴が、ランドセルが揺れるたびに鳴り響いてくる。

 頭痛が増す。

 赤いランドセルに白いTシャツ、小麦色に焼けた肌。

 細い首に、土ぼこりで汚れた小さな顔。

 頬や額には、髪が汗でぴったりと張り付いている。

 すれ違う瞬間、日傘を上げて結衣は少女を見下ろした。

 少女は透き通った瞳で結衣を見つめ返した。

 息を呑む結衣をしりめに、少女はそのまま通り過ぎていく。

 この気持ち。

 振り返る結衣をおいて、少女の背中はさらに小さくなっていく。

 結衣は前を向き直り、唇をかみ締めた。

 カウンセリングに通う道ですれ違う就職活動中の学生やスーツ姿のサラリーマンやOLにいつも感じているあの気持ち。

 ―――敗北感。

 朝も夜もなく、部屋に引きこもるようになった結衣は、小学生に対しても、それを感じてしまった。

 ―――セミが鳴いている。

 横断歩道の無い住宅街の小さな十字路。

 結衣は日傘を深く差して、骨の出た白すぎる足を見ながら歩きはじめた。

 自嘲する気にもならなかった。

 自分でも分かっている。

 私がしていることは現実逃避だ。

 でも……今はこれ以外にうまく生きる方法が分からない。

 ……でも、このまま。……このまま、逃げ続けた先には何が待っているのだろう。