トントンと軽めにノックされた扉から母親が入ってきたことを背中で感じ取るが、結衣はパソコンの画面に顔を向けたまま口を開いた。

「なに?」

「あんた今日夕飯はいらないの?」

「今朝会ったときに、夕飯いらないって言ったよね?!これやってるときは人と会ってるんだから邪魔しないでっていつも言ってるでしょ!早く向こう行ってよ!!」

 苛立たしげな声は神経質に高音になっていく。

「早く出てって!」

「あんたゲームばかりやってないで、少しは求人広告とか見たりしなさいよ」

「できたらやってるよ!!カウンセリング行ってるんだからいいでしょ!!もう、はやく出てってよ!!」

 半分泣きながら結衣は叫び散らした。

「まったく」

 そういいながらため息交じりで母親が退室すると、結衣は空けられたままのドアに向かって歩き出し、思いっきり音を立てて閉めた。

(もう、せっかくのいい気分が台無し)

 パソコンの前に急いで座りなおし、なにかあったのか心配そうな様子のキャスケットに慌てて謝罪する。