しばらく沈黙が続いた。



「……ごめん。ちょっとした冗談のつもりだった。」

「言っていいときと悪いときがあるよ……。私……今すっごく真剣だったのに……。」

「ごめんって。お前の気持ち考えてなかった。ほんとごめん。」



郁哉のバカ。

私の気持ちわかってくれてるのかわかってくれてないのか分かんないよ。


でも……まだ会って3日しか経ってないんだから仕方ないか。



「……いいよ。」

「分かった。次はちゃんと聞くから。」

「ほんとだよ?あのね。私は小さいときちょっとした病気になっちゃってね。その時お世話になった先生がとっても優しくてね。それからずっとお医者さんになるのが夢なの。」


「………うん。」

「私だって分かってるんだ。そんなに簡単になれるもんじゃないって。でもね、絶対なりたいの。だけどさ、みーんな無理だって、諦めろって言うの。」


「希は本当になりたいのか?」



「もちろんだよ。でも無理だって。ママやパパにも言われるんだ……。現実みろっ!って。やっぱり無理なのかなぁ?」



なんで泣きそうになってるの。



話しながら声が震えてきた。



「そんなこと言われた程度で心が揺らぐくらいなら止めとけ。お前の母さんとか父さんの言うとおりさ。現実見ろ。」



郁哉の口からは予想外の言葉が飛んできた。

その言葉が私の心にグサッと刺さる。

もちろん郁哉の顔はとっても真剣だった。


もっと優しい言葉が来ると思ったのに……。


そんなこと考えてたら涙が出てきた。



「おいおい。ほんと泣き虫だな。だからってなれないとは言ってねぇだろ?」



私の涙を郁哉は自分の服の袖で拭いてくれた。



「え………?」

「俺はいいと思うよ?医者になるの。」


今度は満面の笑みで答えてくれた。



「俺はバカだからよくわかんねぇけど知り合いに聞いたら相当大変だってよ。だから言われて揺らぐくらいなら途中で嫌になるに決まってるさ。だからそれなら止めといた方が良いってこと。」



そんなに……真剣に考えてくれてたんだ。



「現実見ろって言うお前の母さんたちのことも分かるよ。でも夢くらいあったっていいじゃねーか?それが叶うかはわかんねぇけどよ。」


「それじゃ……郁哉も大きな夢……あるの?」


「はははは。俺はねーよ。正直今を生きるのに精一杯さ。」