ノックする音が聞こえた。
「はい」
「俺だけど」
声のトーンでわかる。
彼だった。
滅多に来ない彼の声に驚く。
「…どうぞ」
彼は部屋に入ってきた。
何の用だろう…?
「それ、分からないところがあるんだろ?」
「え?」
指をさした方向を見ると、あたしの机の上に開かれた算数の宿題だった。
…あたしは算数が苦手。
分からなくて諦めていた。
でも、あたしは今まで一人で何事も乗り越えてきた。
だから、助けとかいらない。
「…大丈夫」
「なに強がってんだよ」
「別に強がってなんかない。…いつものことだから」
「それなら俺も同じだ。…少なくとも、俺はお前の気持ちが分かる」
…そっか。
あたしが孤独だったように、彼も孤独に乗り越えてきたんだ。
それも、あたしよりずっと長く。
…それなのに、こんなにも頭が良くて大人びている。
この時、あたしは彼を見る目が変わった。