「竹成ー」
「あ、山下!おはよう!」



片思い。

それは、とても切ないもの。

だけど、とっても

とっても

「一緒に教室行こや」

「…!うん!」


楽しいもの。




*☼*―――――*☼*―――――



「いーちにー!いちにさんし!」
「いちに!そーれ!」


体育祭の時期。

GW明けと言うのにグラウンドを
何週も何週も走らされる。

運動部ならGWも練習があっただろうから
なんら関係ないだろうが、
文化部の私にとっては、苦痛でしかない。

元々運動は好きな方だ。
小学生の頃なんかは、50m走で
男子も抜いて記録一番だったこともある。

が、もう、歳だ。
中学生になってからまともに走っていなかったし、そもそも登下校以外で屋外にでるのも久しぶりだった。
グラウンドの端のほうで、担当のハゲの先生が何かしら叫んでいる。

声出せ、とか、その辺のことだろう。
が、周りのみんなの息を切らした乱れた呼吸の音と掛け声のせいで、その声はもみ消されていた。


「お前たちなー。まだ1年生だろう!もっと活気ある元気な声がでんのか!」

…と。
はげがほざいている。

隣の女子達がヒソヒソ話しているのと同じ様な形で右から左に、その文句を聞き流した。


結局発生練習で1時間目が終わった。
朝食をまともに取らない私にとっては1時間目から体育なんて地獄行きのバスに乗るようなものだった。

「なぁーずぅーなぁー」
どん!

…大きな音と共に私の肩に重いものが乗りかかってきた。

「柚、体育の後なのに元気いいなぁ」
「おーよ!だって次は美術だもん!」
「あ、そか。谷本先生か」

その重い物の正体は親友の鮎川柚奈(あいかわ ゆずな)。通称柚。柚は、美術の谷本先生に密かに恋をしている。

正直、私にはあいつの良さがわからないのだけど、親友が好意を抱いている相手に文句は言えまい。


「なずなはテンション上がらんの?
美術、山下と隣やろ?」
「うっ」

山下…山下航汰(やましたこうた)。
言う所の私の好きな人。

まだ中学校に入って1ヶ月だが、
生意気にも私は恋をしている。

最近の小学生は小学校の頃から、彼氏彼女がいて、ませている、と言われているが、私、竹成薺南(たけなりなずな)も、そのませている奴の一人だった。

小6の頃に初彼ができ、卒業と共に自然消滅になったのだが、その元彼と生憎にも同じクラスなのだ。6クラスもあるのに…

何と言う不運。
乗り気になれない私にそっと声をかけてくれたのが山下。


まあ、そんな簡単に恋をしたりしないのだが、話すと日が暮れるほど、山下には、惚れてしまうような事をされた。

幼ない時から男女問わずガンガン話すフレンドリーな性格だったため、男子へ対して、恋と友情の境目がわからないでいた。
そんな中でも、山下のことだけは、好きだ。と思えた。