かつて一家惨殺事件が起きた暁邸
犯人どころか死体すら見つからず
事件は謎に包まれたまま迷宮入りした

今では心霊スポットとして有名だが
霊を目撃したという証言もなく
ただ時代に取り残されたまま存在している

ー池内昌樹ー

夏休みを目前に控え、時期も時期だからなのか、余計に怪談話でクラスは浮かれていた。話題の的はあの「暁邸」。身近にある心霊スポッ
。今日もオカルト好きの女子の話し声が聞こえてくる。

俺は霊を真っ向から否定している。そもそも霊感なんてあるわけがないと思っている。所詮幻覚や幻聴にすぎず、それを霊という言葉に置き換えているだけのようにしか思えない。

…馬鹿馬鹿しい。

昌樹「またその話か。」

連日の「暁邸」の話、暑さへの苛立ちも手伝ってか、俺は女子達の話に割って入った。こんなくだらない話をして何が楽しい?

瑞穂「何よ!いいじゃない。」

この女は橘瑞穂。自ら霊感があると常に主張している。瑞穂も瑞穂だが、瑞穂の話に興味深々な周りの女も馬鹿馬鹿しいと思う。

昌樹「毎回そんな話が嫌でも聞こえてきて、こっちは迷惑なんだよ。」

瑞穂「そんなの知らないわよ。まあ霊感がない人からしたら、くだらないとか思ってるんでしょうけどね。」

昌樹「本当に存在するなら今すぐ目の前に連れてきてほしいね。」

瑞穂「馬鹿じゃない?霊は常に存在してるわけじゃないのよ!」

昌樹「都合がいいもんだな。」

俺の言葉に言い返せなくなってやがる。だいたい、テレビの心霊番組や動画なんて、作ろうと思えば誰でも作れるものだ。だいたい決まって夜。定番すぎてまるで子ども騙し。

瑞穂の周りの女子も黙ってやがる。そんな様子が可笑しくてたまらない。思わず笑みがこぼれた。