朝比奈は、目を細めて私に言った。
「じゃあ、僕帰るわ、じゃあな。痴漢に遭うなよ」
「遭うかよ、誰だと思ってんの」
「だよな」
朝比奈はそう言って反対方向へと行き私と別れた。
私は、朝比奈が何故私を抱きしめたのか、また午後、私に頭を撫でたのかが疑問になっていた。
考えながら、アパートに向かっていた。
すると、見たことある人が目の前に現れた。
私はむ?と首を傾げてその人を見たが、全く分からなかった。
その人が声を掛けてきた。
「おい、あんた俺のこと覚えてないのか?」
その人は、ジャージ姿で髪はいかにもくしでととのえていないボサボサ頭であり、手には今買ってきたのか酒があるのが見えた。
「はい?」
私は、誰だか分からないので何と返事すれば良いかわからなかった。
「この間、会ったばかりの人間を忘れるとは脳みそ腐れたもんだな、池脇さん」
私は、うん?今何と仰いましたと聞こうとして、その人を見た。
ちょうど電柱の光に当たり、顔がはっきり見えた。
「あー、変人美容師!」