朝比奈はただ走っていた。
私は朝比奈に着いていくので精一杯だった。
「はあ、朝比奈待ってよ」
「ここ」
そこは私のマンションだった。
朝比奈に着いていくことだけで私の思考回路はパンクしてしまい、周りの風景は見えていなかった。
「なんで、私のマンション?」
「……池脇先生。僕、望から聞きましたよ。池脇先生に大切な人がいること」
「…え?」
なんで望、朝比奈に言ったの。
「僕がなんで池脇先生のマンションに来たかというと。確かめたかったんだ。本当に、池脇先生が大切な人がいるかどうか。喫茶店とかでも良かったけど、このマンションに行けば分かると思ったから」
走ったからか息をハアハアと切らして朝比奈はなぜこの場所に来たのかを話し始めた。
さっきまで微笑んでいた彼は走り終えた爽快感からなのか電灯の光が光っていて
一番星を見つけたような綺麗な顔をしていた。
「…私の大切な人が誰か教えてもらったの?望から」
「いや教えてもらってない。でも……なんかこのマンションに来れば分かるという僕の勘」
朝比奈は、暗くなり、星が輝き始めている空を見上げた。
もう秋になるからか
この日は風が強くビュービューと吹いていた。
だが、私たちが話している道に食べてすぐに道路に捨てたのかお菓子袋や空き缶が数箇所にコロコロと転がっていた。
「寒いからうち入る?」
私はそんな朝比奈を見て、なぜかここで話すのは悪い気がした。
私が悪いわけじゃない。でも、こんな気持ちをさせたのは私だ。