「え? 何って。頭撫でたの。池脇先生が元気になるように。ねぇ?」

私は座っていたので、朝比奈の顔がもう目の前にあった。

しかも、私の鼻と密着しそうなくらい近かった。

「そういう問題じゃないでしょ! ほらあっち行って!」

チェとつまらなそうに舌打ちして、去るかと思えば、朝比奈は私の左耳元で
じゃあ、またと低い声で言って去っていた。

なにか言おうと、左方向にいた朝比奈を見ようしたが、もうそこには彼はいなかった。

本当になんなんだ。
前までの朝比奈は、どこにいったのだろう。

「はあ、なんで今なんだ」

私は自分のデスクに頬杖をつき頭を抱えた。

この頃、男に言い寄られたり、頼られたりしている気がする。

ゆっくりする時間がほしいものだ。

でも、今やるべきことをやるしかないのだ。

私はパソコンに向き合って、また作業を行った。

その頃、望の声が後ろの方から聞こえてきた。



「朝比奈、ちょっと来て」

物置になっている部屋に私は朝比奈を呼び寄せた。

朝比奈には波が好きだということを何も言わないでほしいと思ったから。

私が波に好きになってもらうようサポートするようなことしたにも関わらず、そんなこと言う権利はないけど…

波に余計な悩みを増やしたくない。

「…なに? 俺、今から教室行かなきゃいけなんだけど」

朝比奈は、ため息をして私を見てきた。

「朝比奈さ、私と交換条件したでしょ。
私に合コンのセッティングするから波の口説き方教えたでしょ。でもそれ取り消しして」

「…はあ? どういうこと?」

「だから、言葉のまま」