望はそれだけ言って、自分のデスクに戻っていた。

望は私の気持ちが分かっているんだ。

変人美容師の心を癒すことは私ではないと思っていたが、間違いではないんだ。

彼は彼なりに分かっていると望なりの励ましだったと思う。

「ありがとう」
望が去った後、私は一人でパソコンを打ちながら呟いた。

それを聞いていたのか朝比奈が私に声をかけてきた。

「なに呟いてんの?」
朝比奈は、うん?と腕を組んで私を見下ろしていた。

私は一旦パソコン作業をやめて、朝比奈の方に向いた。

「いや、なんでもないよ」
私の呟いた声、聞こえてたのか。

心の中で言ったつもりが……

「ふーん、まあいいけど。今日空いてる?」

はい? いきなりなんです?

「え? なんで」

「いや今日、池脇先生に話したいことあるんだけど……」

朝比奈はそう言って、珍しく頭を右手でかいて照れていた。

え?朝比奈が照れてる。
こんな表情もするんだ。
でも、なんで照れてんだ?

「…いいけど。すぐ終わる?昨日あんまり寝てないからさ」

自分の肩を右手で押さえて、パソコンにまた向き直した。

すると、朝比奈が職員室で別の教師がいるにも関わらず、腰を低くして私に頭を撫でてきた。

「なっ……なにしてんの!」