変人美容師は私を見ずにただドアノブを掴み言った。

私はこの答えに応えられない。


「嫌です。忘れられません。あんなこと聞かれたら」

私は変人美容師の目を見た。

ちゃんと、目を離さずに。
私があなたに答えてあげられることを証明できるように目を離さなかった。

「……はあ、じゃあ、どうしたら忘れてくれる? どうしたら!」

変人美容師は私の目を見て、声を荒げた。

「あなたは、もう一人じゃありませんよ」

私はそれだけ言って、変人美容師の背を向けた。

変人美容師はどんな表情をしていたかは見えなかった。

でも今どんなに言ったって、私の声は届かないから。

あなたは一人じゃない。
それだけは、伝わってほしいと思えた。

変人美容師はそれからドアノブに手を握り、私を見ていたが声をかけてはこなかった。

私はただ黙って自分の部屋に入った。

変人美容師はなにを思ったのだろうか。
私の言葉で。