「……もういいよ。肩離して」
その時、変人美容師の肩にあった私の手をゴツゴツした彼の手が掴んだ。
少し悲しく横を向きながら私の手を下に戻した。
私はその行為に、彼はやはりまだ心にはベニさんがいるんじゃないかと思えた。
「私、倉田さんから聞きましたよ。あなたの過去」
「え? 今何って言った?」
変人美容師は目を丸くして、部屋に行こうと前を向いていた彼は後ろを振り向き私を見た。
「あなたの過去」
「……マジかよ。……」
そう言って、変人美容師は黙っていた。
暗い夜、変人美容師のマンションの玄関で黙り込んでいる彼に私はどう対応すればいいか困惑していた。
そんなことを考えていると、下に俯いていた変人美容師が声を発した。
「聞いたのかよ。ベニのこと」
「はい」
「……忘れてくれ、そのことについては」