「……分かった。波、ゴメン」
望は、ただ一言だけ言って、後は口出しはしてこなかった。
「俺も一方的に波ちゃんを押し付ける形になってしまった。ごめん。でもね、旭の気持ちは幼馴染から見てきたから俺だから言えることだよ」
倉田さんはそう言って、じゃあ、俺の話はこれでおしまい。
波ちゃん、なぜあなたにこの話をしたかわかるよねと倉田さんは言った。
望は下を見つつも、悲しい表情をしていた。
望は、私にさっきに帰ってて、倉田さんと話があるからと言い、望は美容院に残った。
私はもう心身ともに限界なので、倉田さんと望にじゃあ、またと言い捨て帰った。
変人美容師の恋人ベニさんが亡くなったことにより、変人美容師の葛藤や苦悩があったこと。
変人美容師は、あの噂はベニさんのために女性の髪を紳士的に手入れしてくれていたこと。
私は変人美容師のことを表しか見ていなかったのだ。
彼が抱えている心の奥底を。
見えていなかったんだ。
外の空気が私の息と交わうようにため息を吐いた。
そして、息を吸ったが胸から空気が入ってきて新鮮なのに。
まだ胸が苦しい。
それから、私は自分のマンションに帰ったがやはりまだ胸が苦しかった。